ほの暗い横穴が二つ。
奥は漆黒の闇。一点の光も希望もない。あるのは、風。
暗闇から一定の間隔で風が吹き出してくるのである。
以前嗅いだことがあるような、ないような、
独特の匂いと湿り気を帯びた風。
その風に吹かれて、
穴の天井に付着した物体がかさかさと揺れる。
物体は、小さな破片のようなものから、
穴の直径をほぼ覆うぐらいのものまであり、そういうものは
まるで心臓の弁のように、開いたり閉じたりしている。
それは片方の穴のことで、もうひとつの穴の奥には、
じっとりと湿り気を帯びた物体が、風を受けて
ブブブと奇妙な音を立てながら小刻みに揺れているのがわかる。
その物体の採集作業に挑む一人の男。
暗闇の中で行う作業は、極度の緊張と危険を伴う。
両穴の壁面には、宇宙最高峰の超好感度センサーが備えられていて、
一瞬でも採集器具が壁に触れるやいなや、あたり一体に
耳をつんざくばかりの轟音が響き、横穴もろとも激しく波打つ。
それは一切の作業終了を意味し、
男は闇の奥へと吸い込まれていく。
睡眠中の子の鼻くそ取りは、こんな緊迫のひととき。
逆に取れると写真を撮りたくなる(実際、撮る)ほど、嬉しい。