「お客様の中に、凹凸著しい木製テーブルの上に
たまごスープをひっくり返されたことがある方は、いらっしゃいますか?」
そんな機内アナウンスが聴こえたら、
僕は迷わず手を挙げるだろう。
そして、僕を必要としているその人と、
たまごスープの光と影について、語り合いたい。
たまごスープはおいしい。
たまごの甘さと、そしてなんといっても、あのふんわりとした食感である。
天女の羽衣のような、あの軽さ、優しさ。
しかし、あのふんわりは、時として残酷になる。。。
その日、僕は固形のたまごスープにお湯を入れて
カレーのお供として、自宅の木製テーブルにスタンバイした。
さあ食べようとしたその瞬間、右手親指がスープの椀に引っかかり、
たまごスープは音も立てずに、テーブルいっぱいにひろがった。
僕の2つの目玉は、
テレビのリモコンの下に流れ込むスープを見た。
木製テーブルの凹凸すみずみに行き渡る
大量のふんわりたまごと、わかめを見た。
テーブルからこぼれ落ち、床にしたたるスープと小ネギ、ふんわりを見た。
(!!!!!!!!!!)
声もあげられず、強烈にもだえる動作を一通りして、
事態が一層深刻になる前に、ぞうきんを手に片付けをスタートする。
スープとわかめと小ネギはいい。
なんとか、ぞうきんで回収可能である。
問題は、「ふんわりたまご」である。
拭く手前からぞうきんにはりつきはじめる。
そして、丸まる。ちぎれる。細かくなる。埋まる。
必死で掃除をしているつもりなのに、
僕はどうやら一生懸命、木の凹凸に“たまごパテ”を埋めていっている。
木製テーブルを、ふんわりたまごで補強している。
ふんわりのくせに。
ふんわりのくせに。。。
「~とまぁ大変だったのさ。はっはっは。
さぁ、次はキミの話を聴かせてくれないか? 何故、僕を呼んだ? 」
僕らはウイスキー片手に、機内でそんな話をする。
きっと、軽くハイタッチもするだろう。
窓の外には、眩しく輝く太平洋。ホノルルは、もうすぐだ。
(妄想)